毎年11月、大手パソコンメーカーの広報や開発者が一堂に会するリンクシェア主催のイベント「PCデジタルフェア」が開催されていました。
しかし、2020年はコロナ禍で中止。
代わりに、各社がネットを通じてアピールを行うオンラインイベントが開催されました。
例年より参加メーカーが少なく、対面してお話を聞くことも出来なかったため、詳しい方針や傾向を伺うことはできていません。
そんな中でも、各メーカーのコンセプトを知ることができる、いくつかのお話は聞けました。
対象メーカーは HP、富士通、ASUS、Dell の4社様。
いつもより小規模ですが、各メーカーのコロナ禍での方策、そして2021年の展望を知りたい方は、参考にして頂ければと思います。
なお、大規模に開催された2019年末のイベントの模様は こちら をご覧下さい。
HP(ヒューレット・パッカード)
世界トップクラスのシェアを持つアメリカのコンピューター機器メーカー。
個人向けのノートパソコンから研究所で使われるスーパーコンピューターまで幅広く手がけている。
近年好調で、2020年度もブランド別のシェアで日本国内 No.1 を獲得。
外資系メーカーだが、国内向けは東京工場で生産されている。
※「ブランド別のシェア」とは、NECと富士通がレノボ傘下となり、これらが「レノボグループ」として売上げ等を合算するようになったため、これをバラして集計した場合を指す。
HP の個人向けのパソコンはデザインを重視した、オシャレなものが多い。
パソコンを嗜好品と考え、高級感があり、個性的なものを作っていきたいという考えは、すでに HP のパソコンの特色として定着している。
2020年から2021年にかけては「環境に配慮しよう」という動きもあり、再生可能資材を使ったパソコンの開発を進めているようだ。
Apple もそうだが、海外では環境への配慮が企業アピールになるため、力を入れているメーカーが多い。
HPの耐久性アピール資料。米軍調達基準を満たすための幅広いテストが行われているとのこと。
基本的に信頼性は、テストと改良に時間をかけられる大企業であるほど高い。
HPの環境アピール資料。リサイクル素材が積極的に利用されている。
海洋プラスチックごみを使用した「Dragonfly」というパソコンは人気製品となった。
コロナ禍での方針として「Work from Home」「Learn from Home」の2つを強化しているという。
ワーク・フロム・ホームは在宅業務、ラーン・フロム・ホームは在宅学習。
要するにテレワークやオンライン授業に適した製品を作ろうということだ。
元々 HP のパソコンはテレワークに適していた。
アメリカではコロナ前からネット会議などが一般的であったため、ビジネスモデルでも相手の声をはっきり聞き取れるスピーカーや、発声をしっかり集音するマイクなどを重視していた。
国産のビジネスモデルはスピーカーなどを軽視していたため、この点において外資系メーカーには一日の長がある。
コロナ対策が一般的になった今、HP はさらにテレワーク関連の機能を強化しているという。
コロナ禍の特徴として、モニターもよく売れているらしい。
テレワーク用のフェイスカメラなどが必要になり、買い替え需要が増したようだ。
モニターに関しては、頑張って売ろう(品薄?)、ラインナップをとにかく増やそう、の2点を重視しているという。
HPのウェブストアの資料。プリンターやモニターでも大手である。
個人向けにも力を入れているメーカーだが、企業での買い換えが進んだのか、今はビジネスモデルが好調のようだ。
2020年からの新たな方策、そして2021年度の方針として、クリエイターモデルに力を入れているとのこと。
HP はワークステーション(業務用大型PC)の技術をフィードバックしたゲーミングモデル OMEN(オーメン)をスタートさせている。
そして2019年まで、高い処理能力やグラフィック能力を必要とする作業は、このモデルでやって貰おうと考えていた。
だが、やはりゲームをやらない人の中には「仕事でゲーミングとは何事だ!」と怒る人がいたらしい。
そんな人のために中間的な Pavilion Gaming(パビリオンゲーミング)を用意したが、それでも意図を上手く伝えるのは難しかったようだ。
そのため2020年からは「クリエイターモデル」を新設。
ワークステーションの開発チームと共に、映像出力や業務用ソフトウェアへの特化、各作業環境への調整を行ったパソコン作り始めたという。
1kg を切る、超軽量パソコンの開発もスタートしたようで、これも在宅業務・在宅学習の強化の一環であるようだ。
HPの個人向け製品のラインナップだが、まだこの中にはクリエイターモデルは含まれていない。
ゲーミングブランドである OMEN は方針が二転三転している印象。
今回一押しされていた1kgを切る軽量ノート「HP PROBOOK 635 Aero G7」。
「新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、大きく変化したビジネスに対応するためのノートPC」とアピールされていた。
HP は技術力があり、コロナ禍でも柔軟に対応している印象がある。
世界的にテレワークや在宅学習の時代に入り、元々の強みが増しているようで、2021年度も好調が続きそうだ。
富士通
日本のコンピューター機器メーカーの大手であり老舗。 国内のメーカーとしてはトップクラスで、世界的にも上位だ。
正確には、富士通のPC部門(富士通クライアントコンピューティング)は2018年に中国のレノボに買収されているが、日本で開発・製造されたパソコンであることをウリとしている。
ちなみに本社工場は島根にある。
富士通はユーザーの年齢層が高めだが、コロナ禍の2020年は、大学生のユーザーが急に増えたそうだ。
2018年頃から若者向けの製品を増やしていたのもあるが、テレワークやオンライン授業によって需要が増し、その中で富士通PCの機能が注目され、他社のCPUの在庫不足もあって、売上げを伸ばしたという。
あまり知られていないが、富士通のパソコンは独自の高発色モニターやサイズギリギリまで拡張したキーボードなど、他社にない機能を持つものが多い。
富士通のノートパソコンの拡張性アピール。軽量薄型でも端子を確保する工夫を凝らしている。
キーボードが左右の端ギリギリまであり、小型PCでもキーの大きさを維持している。
コロナ禍に入り、ノイズキャンセリングの付いたマイクとステレオボックススピーカーを付けた、音質・集音重視の開発を進めるなど、テレワーク関連機能の強化を行っているという。
アルミ素材で有機ELディスプレイを備え、布のような質感を持つ若者向けのパソコンも作られているそうだ。
ただ、大学生や若手社会人に向けた具体的なアピールは、(2020年末の時点では)これから考えていくとのこと。
一時話題になった「小学生向けのパソコン」もモデルチェンジされている。
富士通の新製品アピール資料。CHは若者向けに改良、AHは音と映像を強化したらしい。NHは17インチの大型。
人気なのは超軽量634gの UH(WU)。マイクとスピーカーを改良し、指紋認証を付けたコロナ対策仕様になった。
なお、製品開発の話ではないが……
参加者から「富士通のウェブ販売は、法人向けやビジネスモデルの価格が高いのではないか?」という質問があり、それについては「確かにそうです」と答えられていた。
ウェブ販売は個人向けと考えているようで、法人モデルは法人部門があるので、そちらでやろうという話になっているそうだ。
ASUS
パソコンのパーツメーカーとしてよく知られている台湾の企業。
日本ではゲーミング向けのマザーボードやビデオカードの老舗として有名だ。
また、ノートパソコンでも知られており、安価なノートやタブレットが日本の家電量販店で売られている。
ただ、日本での直販のスタートは2018年からで、その点においては後発のメーカーである。
製品アピールと簡単な質疑応答が行われたのみで、あまり詳しい話はなかったのだが……
2020年から保証を強化し、故障原因不問で年一回、修理費無料(部品代は20%)になる「あんしん保証」を開始した。
また、加入費がかかるが、部品代も含めて3年間、3回の無料修理を行えるプレミアム保証も加えられている。
落下、水没、落雷等にも対応するという。
ASUSは日本での直販の実績が少なく、まだサポート体制が整っていなかった。
(パーツや量販店向けのノートPCは出荷のみで、サポートは販売店に任せていた)
そこから来る直販PCに対するユーザーの不安を払拭したいのだと思われる。
ASUSの高級ノート「ZenBook」の資料。これは Flip S と呼ばれるモニターが360度回転するタイプで、お絵かきタブレットとして活用することもできる。
ASUSは技術屋だからか、やりたいことを全部やっている高機能モデルがあって、そのひとつ。ただし、お高い。
一般量販店向けの「VivoBook」は逆に低コスト重視。
製品アピールは一般向けの上位ノートPC「Zenbook」を中心としていた。
軽量で薄型、2000万回の開閉テストと新素材による高耐久性を持つことがアピールされており、冷却の向上、キーボードの改善なども語られていた。
ASUSと言えばゲーミングという印象があり、以前(2018~19年)のイベントではそちらが中心だったのだが、今年は一般向けのアピールを強めており、それが昨今の方針でもあるようだ。
Dell(デル)
世界規模のシェアを持つアメリカの大手パソコンメーカー。
昨今はレノボとHPに追上げられているが、デスクトップPCでは挽回が見られ、2020年度はモニターの出荷台数でも世界1位だったという。
デルは質疑応答が中心で、方針に関する詳しい話はなかったが……
「納期が遅くなっていたが、今期は大丈夫か?」という質問には「2020年の夏はCPUの供給がなくて遅れていたが、今は大丈夫。即納モデルも復活しており、昼12時までに決済すれば当日出荷します」と述べられていた。
2020年度は発送の遅さや、発送予定の繰り越しが話題になっていたが、もう解消されたようだ。
なお、即納モデルを用意する基準は「売れている一般的なもの」とのこと。
ある程度のパーツをそろえる必要があるため、特殊な製品や、あまり売れない製品は、即納にはできないそうだ。
つまり即納モデルは、人気のスタンダードモデルと言える。
また、他社との違いを聞かれ「法人個人を問わず、すべてのニーズに応える製品ラインナップの豊富さ」を挙げていた。
ストレージ、サーバー、周辺機器などを十分に備え、特に企業からの細かいニーズにも応えられるとのこと。
パーツ単位ではCPUの「Ryzen」が非常に人気だと述べられていた。
ただ、人気すぎて欠品し、ライバルの「Core」も供給不足が続いているため、それが夏のCPUの枯渇に繋がったようだ。
デルは資料画像がなかったので、一昨年に展示されていたパソコンの写真を……
デルは2021年2月、2020年度の業績を発表、過去最高の売上高と営業利益を達成したとコメントした。
法人向けの需要が集中し、コロナ禍は大きな追い風となったようだ。
「サポートが良くないと聞くけど実際どう?」という質問には「日本のサポートセンターによる24時間の体制を整えている」と返答された。
ただ、これは(少なくとも2020年時点では)プレミアム保証(有料上位保証)の場合だ。
デルのサポートは無料保証と有料保証の差が大きく、無料だと電話対応は中国のコールセンターになり、固有の保証サービスもない。
ただ、デルは「顧客満足度の高さ」をアピールしており、悪評には風聞によるところもあると思われる。
デルはウェブ会議が一般的なアメリカのメーカーであるため、テレワーク対応はコロナ前から取り組まれていた。
デル自身もテレワークを推進しているとのことで、今後もビジネスモデルを中心に好調が続くだろう。
今回、お話をお聞きできたパソコンメーカーは以上です。
もっと詳しいお話や、他のメーカーの話については、大規模に開催された 2019年末の展示会のレポート をご覧下さい。
各メーカーの特徴を短くまとめたものは こちら になります。
イベントに参加された各メーカーの担当者の皆さん、ありがとうございました。