- 2020年の秋に発売されたドスパラのクリエイターモデルのノートパソコン
- 高発色モニターと多めのメモリ、GeForce 1650Ti によるグラフィック機能を持つ
- クリエイターモデルとしては非常に安価
こんな人にオススメ!
- 写真や動画の加工、イラスト制作に向いた安いノートPCが欲しい方へ
- 3D CAD(設計ソフト)に向いたノートPCが必要な方へ
- 高発色モニターでプレイできる安いゲーミングノートが欲しい人に
クリエイターPCが安い!?
「クリエイターモデル」とは、2016年頃から出てきたパソコンの新しいカテゴリだ。
写真のデジタル現像、イラストの制作、出版物の編集や動画の作成など、創作活動向けに作られたパソコンのことである。
ドスパラのクリエイターモデルには「raytrek(レイトレック)」の名が付けられている。
かつては、こうした創作向けのパソコンは「ゲーミングモデル」か、業務用の高性能PC「ワークステーション」が担っていたが、ゲーミングモデルはゲームをやらない人だとピンと来ないし、ワークステーションは個人向けではない。
そのためパソコンメーカーは近年、クリエイターモデルを別ジャンルとして販売している。
性能としては、処理の高速なCPU、安定して作業するための大容量メモリ、3Dモデルや映像を滑らかに動かせるグラフィック能力が必要とされるが、これらはゲーミングモデルと共通だ。
クリエイターモデルはこれらに加え、高発色のモニターや、作業に使うためのソフトウェア/周辺機器の動作保証を持つことが多い。
ドスパラの場合、ゲーミングノートには高速描画のモニターが、クリエイターノートには高発色のモニターが備えられている。
その特性上、高価な製品が多いが、本機「raytrek G5」はそんなクリエイターモデルの15.6型ノートパソコンでありながら、非常に安価である。
価格は税込 98,978円(税別 89,980円)。
CPUは中間型の Core i5、ビデオカード(グラフィック機能)も GeForce 1650Ti と上位ではないが、10万円いかないのはメリットだ。
バッテリー持続時間は公称6.5時間。
以下、そんな raytrek G5 の特徴を紹介していきたい。
外観
デザインと側面端子
すこぶる黒い。黒一色の天板である。
他のパソコンにある天板中央のマークも、本機にはない。
天板にマークやデザインが何もないノートパソコンは珍しく、正直のっぺりした印象も受けるのだが、この洒落っ気のなさが作業用ノートとしての気概だろうか。
企業ロゴがない方がいい、という人には良いだろう。
表面には薄めのブラスト(粒子)加工が施されており、サラサラした触感である。

墨染めの外観
ツヤ消しだが鈍い反射がある

中もキーまで黒一色
raytrek のロゴがやや目立つ
キーボードも真っ黒で、いかにも仕事用・プロ用といった感じだが、左上に「raytrek」のロゴが大きめに印字されている。
また、キーには LED ライトが仕込まれていて、ライトアップが可能。
ゲーミングモデルと同様のキーボードのようで、七色に光らせることもでき、そのときの見た目は相応に派手だ。
15.6インチのモデルであるため、ノートとしてはやや大きめ(横36cm x 縦24.4cm)で、重さは約2kg。
昨今の標準的な15型ノートのサイズ・重さであり、モバイルノートほど手軽ではないが、十分に持ち運べる重さとサイズだ。
ただ、約2.5cmの厚さがあり、薄型ではない。
クリエイターモデルはインターフェイス(接続端子)が豊富なものが多いが、このモデルも背面にふたつの Mini Display Port と、4K 画質での出力が可能な HDMI 端子を備えていて、USB-Type C も付いている。
側面の端子は標準的で、右側には青のUSB(3.0)がふたつとカードリーダーが。
左側には USB(2.0)ひとつと LAN、マイクとイヤホンのジャックがある。
4K 出力が可能な点は、クリエイターモデルらしい点と言えるだろう。
本機に搭載されている「GeForce GTX 1650 Ti」は最大3画面までの同時出力に対応しているため、サブモニターがあれば複数の画面で作業することも可能だ。
モニター / カメラ / サウンド
このモデルの最大の特徴はモニターだ。
安価なノートでありながら高発色の液晶画面を備えている。
発色の目安となる「sRGBカバー率」は約91%、「AdobeRGBカバー率」は約70%。
一般の液晶モニターはsRGBカバー率60~80%、AdobeRGBカバー率45~60%なので、高精彩であることがわかる。
ちなみに、sRGB は一般的なカメラやプリンターが対応している色の範囲だ。
ただ、近年の液晶モニターの性能を示す目安としては、色の範囲が狭く、適切とは言えない。
AdobeRGB はフォトショップなどで有名なAdobe社が独自に制定したもので、sRGB より広範囲の色を対象としており、高性能モニターやデジカメの性能を示す目安として適切だが、そこまでの色彩を利用できる状況は限られている。

画面の横枠は6.5mmの狭額
上部は1cmほどでカメラ内蔵

白がsRGB、黄がAdobeRGB
黒は米映画団体やAppleの規格
クリエイターモデルとしては、sRGBカバー率91%、Adobe RGBカバー率70%というのは、高い数値ではない。
クリエイター用のモニターであるなら sRGB は100%、Adobe RGB も100%に近い数値が欲しいところだ。
そうでないと、本来の色とは違った映りになってしまう。
だが、そこまで高品質だとお値段は高くなる。
この価格帯のノートPCとしては上位のモニターであり、細かな色合いを気にする必要がないのであれば、創作活動にも使える発色だろう。
また、4K 出力可能な HDMI 端子が付いているので、本格的な調整は高精彩モニターに繋げて行うということもできる。
モニターの上部にはフェイスカメラとマイクが内蔵されており、テレワークにも活用可能だ。
最新の通信規格である Wi-Fi6 と Bluetooth に対応しており、アダプタなしでワイヤレスイヤホンなどを使用できる。
また、付属されているわけではないが、イラスト制作ソフト「CLIP STUDIO PAINT」、ペンタブレット「Wacom One」の動作確認がある。
これらを使っている人は安心できるだろう。
なお、サウンドを調整できる「THX Spatial Audio」というソフトがインストールされており、スピーカーとヘッドホンの音質を個別に設定できる。
その効果のためか、それともゲーミングモデルがベースのためか、スピーカーの音質はノートPCとしては良いように感じた。内蔵マイクの集音も良好だ。
キーボード
15.6インチのノートPCであるため、キーボードの広さ、大きさ、キーの間隔などは十分だ。
キーにはポチポチしたボタンのような感触があり、打鍵感も良い。
テンキーも備わっていて、数値の入力もしやすい。
ただ、現行のドスパラのノートパソコンはエンターキーが1行分しかなく、その周囲のキーの配置も変えられている。
その分、カーソル(矢印)キーが15型ノートには珍しく、2行分あるのだが……
エンターキーの形が違うのは、慣れるまではタイプミスを誘発するだろう。

キーの間隔やサイズはデスクトップ用のキーボードと同じ

エンターキーが小さく、カギカッコの位置が違い、右矢印がテンキーの下に
キーボードには LED バックライトが備わっており、暗所でも作業しやすい。
光の色はインストールされている「Gaming Center」というソフトウェアで自由に変更可能で、もちろんOFFにすることもできる。
マウスパッドは大きめのものが用意されており、使用に違和感はない。
慣れれば大きくて使いやすいキーボードだが、使い始めはエンターキーに気を配る必要がある。
ただ、画像加工ソフトなどでカーソルキーを使うので、カーソルキーのサイズ維持を優先しているのは、クリエイターモデルとしては長所でもあるだろう。
パーツ性能
処理性能(CPU)
このパソコンにはIntel社のCPU「
2020年の春に登場した、第10世代 Core シリーズの中間型「Core i5」のノートパソコン用。
第10世代 Core には「Ice Lake」と「Comet Lake」の2種類があるが、Core i5-10300H は Comet Lake になる。
基本性能が高いタイプで、さらに「H」は性能重視型を表しており、ノートパソコン用としては処理速度が速い。
そのぶん消費電力は大きいのだが、本機のバッテリー駆動時間は公称6.5時間で、それほど短いわけではない。
クロック数(速度の目安)は2.5GHz、最大4.5GHz。
4コア8スレッドのCPUで、4つの頭脳で最大8の作業を同時に行うことができる。
上位型の Core i7 ほどではないが、十分な速度を持つCPUで、よほど重い作業でない限り創作用途でも不足はないだろう。
なお、このパソコンにはふたつの動作モードがある。
消費電力と駆動音を抑える「Office Mode」と、フルパワーで動作する「Gaming Mode」だ。
この動作モードはキーボードの上部にあるボタンでいつでも手軽に切り替えられ、設定ソフトを経由したり、再起動をする必要はない。

右が電源、左が動作切り替えのボタン。物理ボタンでの切り替えは本当に便利

オフィスモードは Eco にすればより省電力に、Quiet にすればより静音になる
フルパワーを出す必要がない簡単な作業は Office Mode で行い、動画編集などの重い作業や、ゲームをするときには Gaming Mode に切り変えるという使い方ができる。
以下はCPUの測定ソフト「CINEBENCH R23」での計測結果だ。

ゲーミングモード時

オフィスモード時
マルチスレッド(複数同時作業)の測定で、スコアは約5350。
ちなみに、上位型の「Core i7」のスコアは、Core i7-10750H で7100、Core i7-10510U は3200ほどになる。(すべてノート用)
Core i5 とはいえ H(性能重視型)なので、Core i7 の U(消費電力軽減型)より性能が高い。
近年の Office や Photoshop といった作業用ソフトウェアの多くはマルチスレッドによる分散作業に対応しているため、できれば同時作業数の多いCPUを使いたいところだが、そうしたものはやはり高い。
Core i5 は性能と価格のバランスが良いため、10万円以下で出来るだけ高い性能が欲しいと考えると、ベストな選択だろう。
なお、オフィスモードにするとスコアは約4650。700ほど下がった。
だが、測定中のファンの動作音はかなり小さくなった。
性能の低下はそれほど大きくなく、バッテリーの消耗も抑えられるので、普段はこちらで使う方が良いだろう。
グラフィック性能(GPU)
このパソコンは「
現行のゲーム用ビデオカードとしては下位の製品だが、普通に最新グラフィックのゲームを遊べる性能を持っている。
動画やイラスト制作の補助としては十分であり、3Dモデリングの作成や、3D CADの使用でも困ることはないだろう。
一般的な作業において、性能が不足することはないはずだ。
以下は 3D Mark(Time Spy)と FF15 ベンチマークで調べた、GeForce GTX 1650Ti のグラフィック性能だ。


3D Mark(Time Spy)のグラフィックスコアは 3635。総合スコアは 3790。
ちなみにグラフィックスコアは、GeForce の GTX1660 だと約5500、RTX2060 SUPERだと約8500ほどになる。
GeForce シリーズの中では低い数値だが、CPU内蔵グラフィック機能よりは、はるかに上だ。
なお、CPUのところで説明した動作モードは、グラフィック性能には影響しない。
「ファイナルファンタジー15」は高画質で「普通」、標準画質で「やや快適」の評価だった。
問題なく遊べそうで、似た必要動作環境である「モンスターハンターワールド」も普通にプレイできるだろう。
いま流行りの「Apex Legends」も動かしたが、すべてのグラフィック設定を最高にした状態で 70~80fps(秒間70コマ)で動作した。
モニターの描画速度である60Hzを越えており、つまり問題なく(60fps/60Hz、一般的な速度である秒間60コマで)動作する。
本機はクリエイターモデルだが、冒頭で述べたようにゲーミングモデルとクリエイターモデルに構成上の大差はない。
創作作業にもゲームにも使えるグラフィック性能だ。
データ記録装置(HDD/SSD)
本機は標準で 512GB の「NVMe SSD」を搭載している。
NVMe SSDは簡単に言うと「非常に高速なSSD」だ。
高額だが衝撃に強く、従来のものより書き込みと読み出しの速度は大きく勝る。
以下はベンチマーク(性能測定)ソフト Crystal Disk Mark(8.0)の測定結果だ。
1段目の左側(読み込み速度)は約2500、右側(書き込み速度)は約1850だ。
従来のSSD(SATA接続)は読み込み500前後、書き込みは200~500ほどになる。
HDDだと読み書き共に100~150程度。
NVMe SSDがどれだけ速いかわかるだろう。
読み込み速度2500、書き込み1850というのは、NVMe SSDとしては速い方ではない。
ただ、3段目の左側の測定値が600を越えている。
これはデータをバラバラに処理するランダムアクセスの読み込み速度で、600はNVMe SSDでも優秀な方だ。
実際の使用ではランダムアクセスの方が影響するため、悪くない製品と言っていいだろう。
なお、今回の試用機に搭載されていたのは こちら の製品だった。
写真や動画はデータ量が多いため、512GBという容量はクリエイターモデルとしては心もとない。
だが、このモデルは2TBまでのHDDやSSD(SATA)を増設可能で、NVMe SSDも2TBのものに入れ替えることができる。
もちろん価格が高くなるため、安さもウリの本機であまり増量するのは考えものだが、1TBのHDDは足しておくのを勧めたい。
メモリも最大64GBまで増設可能。
本体が大きめな分、冷却やスペースには余裕があるようだ。
総評
限られたコスト内で、創作活動に必要な処理能力とグラフィック性能、さらに高発色のモニターを、出来る限りそろえたパソコンだ。
創作も一般作業も一通り行える性能で、標準構成で10万円を切るコストパフォーマンスは、かなり魅力がある。
バッテリーの持続時間とサイズを考えると、あまりあちこちに持ち出すパソコンではない印象だが、最新のゲームを楽しめる性能は嬉しい。
特に動きの激しいゲームをやらない人や、高速描画を必要としない人だと、高発色でゲームや映像を楽しめるのは大きなメリットであり、色彩重視の低価格ゲーミングノートや、動画視聴用のノートとしてもお勧めできる。
プロクリエイターのメイン機としては、もっと上の性能が欲しい。
この製品はアマチュアや、むしろ一般向けの、価格と性能のバランスが良い、多用途な在宅向けのノートだ。

形式:15.6インチ ノートパソコン
CPU:Core i5-10300H
グラフィックス:GeForce GTX 1650 Ti 4GB
メモリ:16GB DDR4
ストレージ:512GB NVMe SSD
通信:Wi-Fi 6、Bluetooth 5
モバイル性能:2.1kg、バッテリー公称6.5時間
画面色域:sRGBカバー率91%、AdobeRGBカバー率70%
価格:税込 98,978円(税別 89,980円)
※詳細はドスパラ公式サイトをご覧下さい。
※AdobeCC推奨モデルはメモリが32GBになります。
※仕様・価格は時期により変更の可能性があります。
執筆:2021年3月27日