2019年11月の末日、リンクシェア主催のパソコン展示会イベント「PCデジタルフェア 2019」が開催されました。
最新のパソコンを各メーカーの広報や技術者の方がアピールしておられたのですが、今年はCPUメーカー「AMD」の協賛となっており、AMDのミニセミナーも行われていました。

AMD社の最新CPU「Ryzen」に関するお話と、ライバルのINTEL(インテル)社とのシェア争いについて語られていたのですが……
ここではそのミニセミナーの模様と、両社の現状、そして今後についてのコラムを掲載したいと思います。

イベント全体のレポート(各メーカーの方からお聞きした、2019年の傾向と2020年の展望)は こちら のページをご覧下さい。

AMDミニセミナー
※二子玉川ライズ iTSCOM STUDIO & HALL にて

基礎知識、INTEL に負け続ける AMD の歴史

パソコン用のCPUは、主に2つの会社で作られています。
INTEL(インテル)社と、AMD社です。

INTELは2000年頃からずっと、20年近くも主流となっているCPUメーカーです。
Core シリーズや Celeron、Pentium などの製品を開発しており、特に「インテル Core シリーズ」は現在の中心的なCPUです。
性能が高く、余力もあって、安定していて使いやすいと、もっぱら評判です。

一方、AMDはそのライバルなのですが、INTELには一歩及ばない状態が続いていました。
価格を安くして対抗しようとしたため、「コストパフォーマンス重視のマニア向けCPU」という印象が付いています。

それでも2000年代の前半までは良い勝負だったのですが、INTELが"Core 2"や"Core i"シリーズを登場させると引き離され、対抗して発売した"Phenom"と"FX"いうCPUは立て続けに大失敗、以後は完全に劣勢となってしまいます。

INTEL と AMD の CPU の歴史

その後も順調に進化するCoreシリーズに対し、AMDは効果的な製品を出せず、差は広がる一方。
内蔵のグラフィック機能がそこそこ良かったため、ゲーム機での使用例は少なくなかったのですが、近年までAMDのシェアは大きく落ちていました。

しかし2017年、Coreに対抗できる性能を持つ新型CPU「Ryzen」を発表し、変化の兆しが見え始めます。
それでも市場を席巻しているINTELのシェアを奪えるほどではなかったのですが……
最近、事情が変わりつつあるようです。

AMD 最強伝説!? 2019年 AMD がシェア1位

この項では、今回の展示会で行われたAMDミニセミナーの模様をレポートします。

ずっと劣勢が続いていたAMDですが、2019年の7~9月期、ついにINTELのシェアを追い抜いたとのこと。
その時のシェアはINTEL 45%に対し、AMD 55%。

AMDセミナー シェア50%以上
※PCと家電の調査会社「BCN」が発表したCPU販売シェア2019年7-9月期の発表で、50%以上を得たとのこと。
また、AMDは今年で50周年だそうです。

このCPUシェアはPC用だけではなく、ゲーム機なども含めてのものですが、AMD悲願のシェア1位です。
10月は売上げが大きく落ちたようですが、これは米中貿易戦争の影響であり、INTELも同様とのこと。

AMDが1位になった大きな要因は、新型CPU「第三世代 RYZEN」(Ryzen 3000 シリーズ)が発売されたため。
弱いと言われていたシングルスレッド(単一の処理、コア1つの速度)でCoreシリーズと同レベルに達し、「一般のソフトやゲームではRyzenはそれほど速くない」という下馬評をくつがえしました。

Ryzenはコア数(CPU内にある計算を行う中心部分)がCoreより多いので、マルチスレッド(複数の並行作業)は元から強く、マルチコアに最適化されている業務用のソフトウェアではCoreに勝ります。

AMDセミナー Ryzen 3000とCore i9のCinebench測定結果
※ライバルであるINTEL CPUとの比較グラフ。定番のベンチマーク(性能計測)ソフト「CINEBENCH」を使用。
ただし、これは純粋なCPU処理速度の比較であって、ソフトや作業の種類によって得手不得手はあります。
インテルの一強時代が長く続いているため、多くのソフトウェアがインテルCPUに最適化されていて、AMDのCPUは真価を発揮できないケースがあるのも実情。
でも、大きな差は出ないので、それならRyzenの方が安くてお得というのも確か。

さらに電力効率も改善されたとのことで、消費電力が低下、発熱も下がっている模様。
消費電力を気にされる方のために、CPU調整用の付属ソフトウェア(Ryzen Master)には「エコモード」も加えられたようです。

結果「"Ryzen 3000"は"Core i7 9000"より速く、電力消費も少なく、どの面でも優秀です!」とアピールされていました。

AMDミニセミナー CoreとRyzenの電力効率
※消費電力の比較グラフ。水色と青は Core i9、オレンジは Ryzen 9。
電力効率はRyzen登場後もCoreに負けていた部分でしたが、Ryzen 3000で大幅に良くなったとのこと。
発熱も下がったようで、Ryzen 9 は水冷推奨ですが、「空冷でもいけます」とアピールされており、実際に会場には空冷のマシンが展示されていました。

最上位型(フラグシップモデル、超高額で技術アピール的な製品)の「Ryzen Threadripper」も年末に登場するとのことで、「今年はAMDが躍進した年、来年も引き続きご期待下さい!」と締められていました。

AMD 躍進の本当のところは……?

しかし、会場にブースを構えていたPCメーカーの方々は、AMDのシェアは確かに伸びているけど、INTELを逆転するほどではない、と言われていました。
「AMDを多めに見積もっても、INTELとAMDが4:1ぐらい」とのこと。

ただ、昨年(2018年末)の展示会で同様の質問をしたときは、Ryzen 2000の登場でそこそこ盛り上がっていたにも関わらず、「AMDは多くて10%ぐらい」「AMDの製品を選ぶ人は5%程度」といった回答が多かったので、4:1であれば大躍進とは言えます。

AMDミニセミナー Ryzen3000ラインナップ
※第三世代 Ryzen のラインナップ。第三世代のRyzen 3(下位モデル)は、2019年内には登場しない模様。

これについて重ねてお聞きしたところ、「INTELのCPUの供給不足が要因では?」という回答を頂けました。

INTELのCPUの供給不足は2018年中から問題になっており、昨年のイベントでも「CPUを確保できなくて製品が作れない」「どのメーカーさんも困っていて、CPUの取り合いになっている」といったお話を聞いていました。
その供給不足が2019年末になっても改善されていない模様。
原因は需要過多とか、材料不足、工場の改善が進まないなど、色々と噂されていますが、はっきりしません。

しかし、AMDのCPUには在庫があった。
そこで各メーカーは今年に入り、入手しやすいAMDの製品をプッシュし始め、そこに来て第三世代のRyzenが登場。
性能も良好だったため渡りに船で、各メーカーが一斉に飛び付き、結果7月にシェアが急に伸びた…… というのがAMD躍進の真相のようです。

2020 年、INTEL と AMD の争いはどうなる?

さて、では2020年以降は両者の争いはどうなるでしょうか?

INTELはずっと「後出しジャンケン」をしていた印象があります。
AMDの製品が出てから、それより一回り優れたINTELのCPUを出し、相手の製品のメリットを潰すというものです。

ただ、近年の後出しはイマイチ弱い。
第一世代Ryzenに対する第八世代Coreはそこまで大きな性能差はなく、第二世代Ryzenに対する第九世代Coreもマイナーチェンジといった印象。

第九世代Coreの発売前、INTELのCPUに「Spectre」や「Meltdown」と呼ばれる、悪用されるとデータを盗まれる危険のあるセキュリティの穴(脆弱性)が見つかり、その対応に追われていたのもあります。
(AMDのCPUにも影響はありましたが、INTELほどではありませんでした。なお、この脆弱性による実害の報告はありません)

もし第三世代Ryzenの対抗製品が弱かった場合、そしてINTELのCPUの供給不足が改善されない場合、2020年はさらにAMDが躍進する年になる…… かもしれません。
INTELの新製品である第10世代のCoreは大きな変化が予定されていますが、まだノートPC用の先行型が出たばかりで、その真価はわかりません。

Surface Pro 7
※いち早く第10世代の「Core i7-1065G7」を搭載できるマイクロソフトの「Surface Pro 7」。
今までサーフェスに使われていたCPUよりは一回り上の性能です
。お値段はやはり高い。

いずれにせよ、AMDの復活はPCメーカー各社が期待していたことでした。
AMDがPhenomで失敗して急落して以降、INTELは強力な製品を出さなくても盟主の地位が揺るがなくなったため、INTELのCPUの進化ペースも落ちました。
「AMDが頑張ってくれないと、INTELも……」というのは各メーカーがずっと言っていたこと。

来年のAMDの追撃、INTELの反撃、そして両者の切磋琢磨を、また期待したいところですね。

※イベントの全体レポートは こちら をご覧下さい。