- 2022年の夏に登場したドスパラの15.6型ノートパソコン
- あえて第12世代 Core を使わず安価に構成し、実用性を重視して本体を形成
- 細めのテンキーとタッチパッドに浮かぶテンキーの、ダブルのテンキーを持つ
こんな人にオススメ!
- 10万円以下でノートパソコンが欲しい方
- そんなに高いのは要らないけど相応の性能は欲しい方
- 安価なノートPCでも平凡なのは嫌な方
レビューは公正に、忖度なく行っております。
安価だがユニークな一品
今年(2022年)の春、ドスパラは「リーズナブルで実用的な機能を持つ製品」をコンセプトに、格安ノートパソコン「THIRDWAVE VF-AD5」を開発した。
それは工夫の凝らされたユニークな機能を持っていたが、CPU が最安価格の Celeron であったため、用途は限られていた。
今回扱う「THIRDWAVE SA505i」は、そんな VF-AD5 を能力の高い Core シリーズ搭載型に改修した、性能向上モデルのひとつである。
本機は CPU に Core i5-1135G7 を搭載する。
第11世代の CPU であり、最新の第12世代 Core ではないが、そのぶん安く、一般用途として不自由のない性能を持つ。
メモリ8GB搭載、ストレージは NVMe SSD 256GB で、標準的なノートPCと同等。
これで価格は(7月時点で)税込99,980円と、10万円以下に抑えられている。
10万未満なら減価償却ではなく消耗品費として扱えるため、企業や個人事業主の確定申告などでラクだという利点もある。
機能面でも、物理的なテンキーに加え、タッチパッドにテンキーが浮かび上がる、2つのテンキーを装備。
Thunderbort4 の USB-C 端子も2つ備えており、安価ながら平凡な機種ではない。
以下、その特徴を詳しく検証していきたい。
なお、Core i3 を搭載した SA503i、Core i7 を搭載する SA507i も用意されている。
外観
デザインとモバイル性能
アルミニウム素材で構成された本体は、深みのあるブルーで色付けされている。
最近流行りの紺系だが、アルミのメタリック感が加味された独特の色合いと光沢があり、オーシャンブルーというか、浅葱色(新選組の色)を濃くした感じというか、そんな鮮やかながらも、落ち着いた風合いとなっている。
金属系の硬くてひんやりした触感があり、表面の粒子加工により汚れや指紋は付きにくい。
天板にはロゴなどは一切ないが、その色はとても印象的だ。
何色なのか表現しづらい独特なブルー
光の当たり具合によっても印象が変わる
中はブルーとブラックのカラーリング
暗めの室内だと紺が強くなる
15.6インチのモデルで、ノートパソコンとしてはやや大きめ。
重量は約1.7kgで、このサイズのノートとしては標準的、やや軽い方と言えるだろう。
ACアダプタも小型軽量で、両方合わせても 2kg 行かない。
モバイルノートと言うほどではないが、運搬に困るほどのサイズと重さではない。
バッテリーは公称12時間と、かなりの長時間駆動。
CPUが省電力なのに加え、約70Whという大型のバッテリーが搭載されている。
A4とセミB5ノートとの大きさ比較
およそ横36cm、縦23cm。厚さ19mm
ACアダプタはかなり軽量。コード込みでも約215g。本体込みで2kgいかない
インターフェイス(接続端子)は前述したように、最新の USB4/Thunderbolt4 に対応した USB-C 端子を2つも備える。
データを 40Gbps の高速でやり取りでき、映像出力やモバイルバッテリーでの充電にも対応。
本体のモニターを含めて最大4画面のマルチモニターでの作業も可能だ。
付属のACアダプタも、この USB-C で充電するタイプ。
左側に1つと右側に2つ、普通の USB 端子もあって使い勝手が良い。
右側面。指紋認証はここにある。2つのUSBは速度が異なり、手前はマウス用
左側面。USB-C は両方こちら。奥にUSB、手前がHDMIで間違いやすいので注意
通信機器は Wi-Fi 6(ax)に対応、もちろん Bluetooth も内蔵。
ただし有線LAN端子がないため、有線でネット接続をするには別途USBのLANアダプタが必要になる。
ただ、LANアダプタは+1700円で購入時に付属して貰うこともできる。
付属品はバッファローの こちら の製品だった。(定価よりも安い。色は黒)
モニター / カメラ / サウンド
モニターは標準的な15.6型液晶で、解像度は1920x1080、非光沢。
台湾のメーカー(Innolux)のもので、sRGBカバー率は66%と高発色ではないが、視野角が広く、安物のモニターにありがちな色ムラや見る角度による劣化が少ないため、見た感じは悪くはない。
輝度300nit、コントラスト 1000:1、リフレッシュレート 60Hz と、この辺の性能も標準的だ。
ヒンジは45度(135度)までしか開かないが、開いたときにキーボードを持ち上げて傾斜を付け、タイピングしやすくするようになっている。
額縁を狭くして本体を小型化
カメラには盗撮防止シャッターがある
キーボードが持ち上がるリフトアップヒンジを採用。見ての通り本体は薄い
カメラは標準的なHD画質(約92万画素)。
顔認証はないが側面に指紋認証が備わっており、手軽かつ安全にログインできる。
顔認証はマスクをしていると認証されないため、コロナ禍の今は指紋認証の方が良いだろう。
スピーカーは底面ではなく、キーボードの左右に付いている。
ただ、音質は良いとは言えず、特別なイコライザー(音声調整)ソフトもない。
少しくもっているような音質で、Realtek Audio Console というソフトウェア(一般的なパソコンのサウンド機能)である程度の調整は効くが、クリアな音質にはならない。
音については価格相応と言ったところだ。
※Realtek のオーディオ機能はパソコンの標準的なもの。高音質を求めるなら、これに+αが欲しい。
キーボード
THIRDWAVE SA500i シリーズのキーボードはかなり特徴的だ。
キーピッチ(キー間隔)が19.6mmもあり、見るからに広い。
実際、私は手が大きい方だが、それでも広く感じる打ちやすさがあった。
ちょっと広すぎてバックスペースキーに指が届かないミスを多発してしまったが、普段使っているキーボードとの違いのためでもあり、慣れれば問題はなくなるだろう。
エンターキーも大きくて叩きやすい。
キーストローク(キーの深さ)は、ベースとなった VF-AD5 は 1.2mm と浅めだったようだが、本機はそれより深い印象。
強めの抵抗と反発があって打鍵感は良く、少なくとも浅いキーにありがちな、板を打っているような感触はない。
キーボードバックライトも備わっており、初心者が暗所で作業する場合でも使いやすい。
アルファベットキーが大きく、デスクトップ用キーボードと変わらないサイズ感
エンターキーも大きくて押しやすい
句読点やカギカッコのキーも大きめ
そして本機の最大の特徴は、ダブルのテンキーが備わっていることだ。
まず、キーボードの右端に縦に細長い、横3列のテンキーがある。
見た目はいかにも窮屈で、実際に2本の指で打つのには向いていない。
だが、1本の指で見ながら打つのにおいては、これでも支障はない。
ちょっとした数値の入力はこれでも十分で、ドスパラはこれを「ネイルチップ・テンキー」と呼称している。
狭くてもあると便利なテンキー。右下に小さなエンターキーもある
他とはサイズが違い過ぎて、当面は見ながらでないと扱い辛い。慣れは必要
さらにもう一つ、タッチパッドにテンキー機能が備わっている。
パッドの右上にある電卓ボタンを長押しすると、パッド上にテンキーが浮かび上がる。
このテンキーはサイズがかなり大きく、2本の指でもラクラク使うことができる。
パッドなので打鍵感はないが、スマホのタッチパネルと同じ感じなので今どき違和感のある人は少ないだろう。
パッドのテンキーを ON にしていると(パッドで)カーソルを動かせないのは難点だが、表計算ソフトの入力を行うときなどに役に立つはずだ。
そして何より、カッコイイ(重要)。
ただ、切り替えに3秒かかるので、もうちょっと素早く切り替えられたら、というところもある。
タッチパッドがテンキーに変身!
ドスパラはフロストパッドと呼称している
こんな風にボタン長押しで切り替え
ボタン配置は計算機風になっている
パッド自体の使い心地だが、大きめで扱いやすい。
また、少ししっとりした触感があり、指の滑りも良くて操作しやすい。
ただし、検証機は押し込んだ時にパチンと音がするほど硬く、クリックはかなりし辛かった。
今どきのタッチパッドは、ポンと叩けば左クリック、ポンポンと叩けばダブルクリックになり、二本指だと右クリック、ポンポンと叩いてそのまま押しっぱなしにすればドラッグ&ドロップできるので、それを知っていれば押し込むことはないのだが……
そうした使い方を知らない人だと、扱いづらいパッドだと感じるかもしれない。
パーツ性能
処理性能(CPU)
今回のレビュー機である THIRDWAVE SA505i は Core i5-1135G7 を搭載している。
2020年に登場した第11世代 Core の CPU であり、2022年の新型である第12世代 Core ではない。
ただ、第12世代 Core はまだ価格が高く、本機は「リーズナブルで実用的」をコンセプトにしているため、割安な第11世代 Core を採用している。
4つのコアで8つの処理を同時に実行できる、4コア8スレッドの CPU だ。
TDP(消費電力と発熱の目安)は28Wとなっているが、本機は15Wで動かす設定になっていた。
よって性能がやや抑えられているが、消費電力と発熱は少ない。
以下は性能測定(ベンチマーク)ソフト Cinebench R23 で計測した結果と、他のノート用CPUとの比較グラフだ。
Core i5-1135G7(15W)の計測結果
動作速度の再現
・マルチコア性能(Cinebench R23 定格)
Core i7-12700H:14900
Core i7-11800H:10800
Core i7-1260P:8640
Core i5-11400H:8250
Core i7-1165G7:5800
Core i5-1235U:5000
Core i5-1135G7:3850(28W)
Core i5-1135G7:3700(15W)
Core i5-10210U:3100
Core i3-1115G4:2600
Celeron N5100:1430
Celeron N4100:950
・シングルコア性能(Cinebench R23 定格)
Core i7-12700H:1810
Core i7-1260P:1540
Core i7-11800H:1520
Core i7-1165G7:1500
Core i5-11400H:1480
Core i5-1135G7:1350(28W)
Core i5-1235U:1340
Core i5-1135G7:1300(15W)
Core i3-1115G4:1300
Core i5-10210U:1050
Celeron N5100:600
Celeron N4100:380
第11世代の Core i5 であるため、第12世代を含めたグラフだと下位となるが、それでも去年までは最新だった CPU であり、そこまで性能が低いわけではない。
また、電力が 15W に抑えられているが、28W と比べてもそれほど差はなかった。
なお、SA503i(約9万円)は Core i3-1115G4 を、SA507i(約12.5万円)は Core i7-1165G7 を、格安モデルである VF-AD5(約5万円)は Celeron N5100 を搭載しているので、性能差の目安にして欲しい。
価格とCPU性能はおよそ比例している。
とりあえず、Celeron や Core i3 だともたつくことも多いと思うが、Core i5 や Core i7 なら一般的な使用において、そういうケースは少ないはずだ。
事務やインターネット、動画視聴や軽作業などは快適にこなすことができるだろう。
ただ、高負荷になると消費電力が控えめのパソコンとしてはやや大きめの、キーンという甲高い動作音(冷却ファンの回転音)がする。
グラフィック性能(GPU)
安価な一般モデルである本機はグラフィック性能は重視されていないのだが……
一応、その性能も測定しておいた。
本機(SA505i)に搭載されている Core i5-1135G7 にはCPU内蔵のグラフィック機能としては高性能な Iris Xe グラフィックスが備わっている。
ただし、Core i7 と比べると性能は控えめだ。
ベンチマークソフト 3D Mark: Time Spy で調べたグラフィック性能は以下のようになった。
※ゲームパフォーマンス予測の1080pは解像度1920x1080、1440pは2560x1440。
Ultra は最高画質設定であることを示す。
グラフィックスコアは 1150。
ちなみに Core i7-1165G7(SA507i)は 1400 前後。
Core i3-1115G4(SA503i)だと Iris Xe ではないので 700 ぐらいしかなく、Celeron N5100 は測定不能となる。
人気ゲーム「Apex Legends」は画質を下げれば 30fps(秒間30コマ)で動くが、起動してしばらくは動作が不安定で、頻繁に動きが引っかかっていた。
「ファイナルファンタジー15」のベンチマークも軽量画質でも動作困難の評価。スコアは約1800。
「モンスターハンターライズ」も起動に10分近くかかるため、実用的ではない。
ただ、動き始めれば中画質でも 30fps で動作するため、普通に遊ぶことはできる。
FF15は第11世代の内蔵GPUでは厳しい
FF14なら遊べるが……
モンハンライズは初動でかなり待つが、そのあとは意外と快適に動く
CPU内蔵のグラフィック機能はビデオメモリをメインメモリから借りるが、明らかにその量と性能が足りていないようで、大型のゲームをプレイするのは厳しい。
ただ、描画性能自体はそこそこあるので、古いゲームや小規模なもの、負荷の低いものならプレイはできるだろう。
ともあれ、本機はゲームや設計を想定しているパソコンではない。
動画視聴などは不足なく行えるため、一般の用途でグラフィック性能が問題になることはないはずだ。
ストレージとメモリ(記録装置)
メインストレージには容量 256GB の
従来の SSD よりも小型で高速なスティック型の SSD で、近年のノートPCはこれが標準だ。
256GB は大容量とは言えないが、事務や軽作業にしか使わないならこれでも十分だろう。
残念ながらカスタマイズで増量することはできない。
なお、SA507i(Core i7 搭載機)は 512GB を搭載している。
以下はベンチマークソフト Crystal Disk Mark による速度計測結果だ。
標準設定での測定
NVMe SSD 設定の測定
読み込み速度は 3450MB/s、書き込み速度は 1750MB/s。
Gen3(第3世代 PCIe)の NVMe SSD としては読み込み速度に優れている。
ランダムアクセス(3段目、バラバラのデータの処理速度)は標準的だが、特に欠点はない。
使われていたのは台湾の Phison 社の製品だ。
なお、本機は底面にネジ止めされたカバーがあり、これを開くと NVMe SSD(M.2 スロット)にアクセスできる。
やろうと思えば NVMe SSD の自力交換も可能だが、Windows の再インストールとデータのバックアップが必要になるので、初心者にはハードルが高い。
一応、ハード的(物理的)には交換しやすいようにはなっている、とだけ言っておく。
メモリは LPDDR4x-3733 というものが使われている。
LPDDR はスマホやノートPCによく使われる省電力型のメモリだが、独自の進化を続けており、その能力は一般の DDR4 に引けを取らない。
SA505i は4GBが2本、合計8GB搭載されており、2本のメモリにデータを分散して高速化するデュアルチャネルで動作している。
スペックを考えると十分なメモリ量と言えるだろう。
なお、SA507i は16GBのメモリを搭載している。
総評
高くて良いのは当たり前。 安くて良いものを作る方が難しいのは道理である。
第12世代 Core の登場と半導体の不足でパソコンの性能と価格がさらに上がっている中で、新しい安価なパソコンの在り方を模索した、ドスパラなりの答えが本機と言える。
テンキーを細くして、さらにタッチパッドにテンキーを浮かび上がらせたことの実用性については、賛否あるところだと思う。
ただ、他の画一的なパソコンとは違うその特徴に、大きな魅力を感じたことは確かだ。
Core i5 を搭載し、一通りの新型パーツを備えて約10万円約7万円という価格にも、安かろう悪かろうではない、この価格帯での挑戦や意欲を感じる。
パソコンが欲しいけど10万円以下に抑えたい、でも低性能なものや平凡な物、型落ち品は嫌だ、という方にはピッタリの機種だろう。
形式:15.6インチ ノートパソコン
カラー:ダークブルー
CPU:Core i5-1135G7(第11世代Core、4コア)
グラフィックス:CPU内蔵(Iris Xe)
メモリ:8GB(LPDDR4x-3733、4GBx2)
ストレージ:256GB NVMe SSD(Gen3)
モニター:解像度1920x1080、sRGBカバー率 約66%
通信:Wi-Fi 6、Bluetooth 5
モバイル性能:約1.7kg、バッテリー公称12時間、指紋認証
その他:USB4/Thunderbolt4 x2、細めのテンキー、タッチパッドに浮かぶテンキー
価格:税込99,980円
※詳細はドスパラ公式サイトをご覧下さい。
※仕様・価格は時期により変更の可能性があります。
執筆:2022年7月23日